
看護師の採用がうまくいかない?クリニック採用のポイントとコスト
1.導入|クリニックにおける看護師採用の難しさとは?
近年、医療機関における人材不足が深刻化するなか、とりわけ「看護師の採用」は多くのクリニック経営者にとって最重要課題のひとつとなっています。新型コロナウイルスの影響や働き方改革の推進により、看護師の労働環境は見直されつつある一方、求人数は依然として高水準。病院との採用競争、待遇面での制約、業務負担の多様性など、クリニック特有の課題が採用の難しさを増幅させています。
また、医療法人や大規模病院と異なり、クリニックでは一人の看護師の有無が診療体制全体に大きな影響を与えるケースが多く、採用の成否が日常診療の質や効率に直結します。そのため、単に「人を集める」だけでなく、適切な人材をいかに獲得し、長期的に定着させられるかが、経営安定の鍵を握ります。
本記事では、看護師採用における基本戦略から、コストの管理、応募数を増やすための工夫、さらには定着率を上げる実践的なポイントまで、クリニックに特化した視点で詳しく解説していきます。
2.採用戦略の基本|まず明確にすべき3つの視点
看護師の採用活動を成功に導くためには、「とにかく募集を出せば応募が来る」といった属人的なアプローチではなく、戦略的な準備と計画が欠かせません。採用活動に着手する前に、以下の3つの視点を明確にしておくことで、応募者とのミスマッチやコストの浪費を避けることができます。
求める人物像と業務内容の整理
まず最初にすべきは、「どのようなスキル・人物像を持った看護師が必要なのか」を言語化することです。外来診療を主とするクリニックでは、患者対応力、臨機応変さ、マルチタスク対応力が重要です。たとえば、点滴や採血が多い診療科ではその技術が必須ですし、小児科では親子への柔らかな対応力が求められます。業務の特性と期待する役割を明確にすることが、採用活動全体の精度を高めます。
募集媒体・方法の選定
次に、ターゲット層に応じた募集媒体の選定です。求人サイト、人材紹介会社、ハローワーク、SNS、地域の医療系学校など、多様な手段がありますが、媒体の特性を理解した上で選定しなければ、費用対効果は下がります。また、広告の掲載だけでなく、院内掲示、口コミ、紹介制度の整備など、ローコストな手法も併用することが有効です。
採用フローの整備
採用活動では、応募から面接、採用通知、入職までの一連のフローをあらかじめ設計しておくことが重要です。応募者に対する返信の遅れや、曖昧な説明は「不誠実」という印象を与え、辞退につながりかねません。面接日程の迅速な調整や、見学・説明会の案内など、クリニックの対応品質そのものが“職場の質”として評価されると意識すべきです。
3.応募が集まらない理由とその対策
「求人を出しても全く反応がない」「面接希望すら来ない」――このような声は、看護師採用に悩む多くのクリニックで共通しています。その原因を探るには、待遇条件・情報発信・応募導線の3点に注目する必要があります。
待遇条件の見直しが最重要ポイント
看護師は常に複数の求人情報を比較検討しています。その中で選ばれるためには、給与、勤務時間、休暇制度、福利厚生などの待遇条件が“見劣りしない”ことが必須です。クリニックでありがちなのが「病院より負担が軽いから給与は安めでもよい」といった考えですが、それが通用する時代ではありません。
特に都市部では、他院と比較されやすく、わずかな待遇差でも応募に影響が出ます。相場を調査したうえで、可能な範囲での改善が必要です。
採用ページや求人票の作り方
求人情報は、“魅せる”ことが求められる時代です。単に「○○業務あり・月給○万円」では応募者の心に響きません。求職者が知りたいのは、職場の雰囲気・人間関係・成長環境です。
写真を活用したり、スタッフの声を紹介したり、「1日の流れ」などを明示することで安心感が高まります。また、「子育て中の方も働いています」「残業はほぼなし」など、ライフスタイルに応じた配慮も、強力なアピール材料になります。
応募のしやすさを高める工夫
募導線の整備も重要です。「電話のみ受付」「履歴書郵送必須」といった旧態依然の方式は、応募のハードルを高くしてしまいます。
メールやLINE、応募フォームの活用によって、スマートフォンからすぐ応募できる環境を整えることが、応募数に直結します。また、一次面接のオンライン対応など、柔軟な対応も評価される傾向があります。
4.採用にかかる費用|見えにくいコストを整理する
看護師採用に関する悩みの中で見落とされがちなのが、「コスト」の問題です。採用費用といえば求人広告や人材紹介料を思い浮かべがちですが、実際にはもっと多くの“見えないコスト”が存在します。限られた予算のなかで、最大限の成果を出すには、コスト構造を正しく理解し、効果的な投資判断を行うことが重要です。
採用活動の主な費用項目と相場感
採用にかかる費用には、以下のようなものがあります。
- 求人広告費用(媒体掲載料): 1求人で3万~30万円程度(媒体による)
- 人材紹介料: 年収の約30%が相場
- 採用サイト制作費: 簡易的なもので10万円前後、本格的なものは数十万円
- 面接・見学対応などの人的工数: スタッフの業務時間を割く必要がある
- 入職後の研修・教育費: 導入研修、OJTなどに伴う時間・労力
これらはすべて「費用」であると同時に、投資でもあります。適切な費用配分で、質の高い人材を獲得できれば、結果として経営効率の向上につながります。
採用失敗の損失は予想以上に大きい?
一度採用しても、短期離職されてしまった場合、そのコストはすべて無駄になります。
たとえば、紹介料40万円で採用した看護師が3ヶ月以内に退職してしまった場合、費用だけでなく、業務調整、患者満足度、スタッフのモチベーションなどにも悪影響を及ぼします。
加えて、新たな採用活動に再投資が必要になることから、結果的に「1人を採用するのに100万円以上かかっている」という事例も少なくありません。
効率化のための外部委託や支援の活用
すべてを自院で完結しようとすると、かえって非効率になりがちです。看護師採用における媒体選定や求人原稿作成、採用戦略設計など、プロの知見を活用することで成果と効率を両立できます。
5.医療事務との役割分担とチーム運営の工夫
看護師の採用がうまくいったとしても、入職後に現場の人間関係や業務の不均衡が原因で離職につながるケースは少なくありません。そのなかでもよく見られるのが、「医療事務との役割分担の曖昧さ」によるストレスや衝突です。
クリニックでは人数が限られるため、一人ひとりが多くの業務を兼任するケースが多く、看護師と医療事務の業務が重なる部分も出てきます。たとえば以下のような場面が考えられます。
- バイタルチェックを誰が行うのか?
- 電話対応は看護師か医療事務か?
- 診察補助に入る優先順位は?
こうしたグレーゾーンが積み重なることで、職場の不満が蓄積してしまうのです。
このような事態を避けるためには、まず役割と責任範囲を明確化し、業務マニュアルやルールを整備することが大切です。事前に期待値をすり合わせることで、誤解や摩擦を減らすことができます。
また、日常的なコミュニケーションの場を設け、スタッフ同士が意見を出し合える環境づくりも重要です。週に1回のミーティングや、月1回の個別面談を行うことで、現場の声を吸い上げ、定着率の向上につながります。
6.定着率を高める!入職後のフォローアップ体制
せっかく苦労して採用した看護師も、「居心地が悪い」「想定と違った」といった理由で早期に離職されてしまっては、採用の労力とコストが水の泡です。採用は“スタート”にすぎず、そこから定着につなげる取り組みが不可欠です。
教育と育成制度の充実がカギ
多くのクリニックでは「業務に慣れるのは現場で覚えるもの」というスタンスが主流ですが、それだけでは離職リスクが高まります。
特に中途採用者は「即戦力」と見られがちですが、施設ごとに業務の進め方や使う機器、患者対応の方針は異なるため、一定の教育期間が必要です。OJTに加えて、チェックリストや評価制度を設けることで、本人の不安を和らげ、周囲も育成の進捗を共有しやすくなります。
働きやすさの仕組みづくり
働きやすさの指標は人それぞれですが、以下のような取り組みは多くのスタッフから支持を得ています。
- 残業の抑制(業務の時短化)
- 柔軟なシフト調整(家庭事情に配慮)
- メンタル面のケア(定期面談や第三者相談窓口)
「辞めたい」と思ってから本音を聞き出しても、すでに手遅れです。日常的なフォローと柔軟な働き方の工夫が、定着率を大きく左右します。
フィードバックと感謝を伝える文化
モチベーション維持において、適切なフィードバックや感謝の言葉は非常に大きな役割を果たします。
たとえば、月1回の「ありがとうカード」のやりとりや、業務改善提案に対するフィードバックなど、小さな取り組みが“ここで働いてよかった”という感情を生むのです。人間関係の良好さは求人票に書けない魅力であり、職員の紹介など“良い採用の連鎖”にもつながります。
7.【事例紹介】成功するクリニックが実践している採用と定着の工夫
看護師採用と定着に成功しているクリニックには、共通する“工夫”があります。大規模な制度や高額な投資をせずとも、小さな配慮や地道な取り組みによって、大きな成果を上げている事例も多くあります。
ケース①:地域密着型クリニックの「人柄重視採用」
東京都内で開業して5年目となる内科クリニックでは、看護師の採用にあたり「スキルよりも人柄重視」を徹底しています。
院長が直接面接に入り、診療理念やクリニックの雰囲気とマッチするかを丁寧に確認。また、面接時に他のスタッフと簡単な顔合わせを行い、現場の意見も取り入れて最終決定する仕組みを導入。結果として過去3年間の看護師定着率は100%を維持しています。
ケース②:子育て世代の看護師に特化したシフト制度
千葉県の皮膚科クリニックでは、「育児と両立できる勤務体系」をテーマに、短時間パート枠を複数設けています。
勤務時間は午前診療のみ・週2回でもOK、かつ子どもの急病などにも柔軟に対応する文化を徹底。その結果、競争率の高いエリアで毎回複数の応募が集まるようになりました。
同時に、スタッフ間で助け合う仕組みを作ることで、現場の不公平感も最小限に抑えています。
ケース③:見学制度と研修フォローで早期離職を防止
地方都市の整形外科クリニックでは、応募者に「入職前見学+半日体験勤務」を導入。ミスマッチの防止に加え、入職初日から不安なく業務に入れるよう、教育用マニュアルとトレーナー制度を整備しています。
結果として、過去5人の中途採用者全員が1年以上勤務を継続中。スタッフからも「最初のサポートが手厚くて安心できた」と好評です。
これらの事例に共通するのは、「看護師を労働力として扱うのではなく、チームの一員として迎え入れる姿勢」です。規模に関係なく、院内で実践できる施策は多く存在します。
8.まとめ|看護師採用の成功は“準備”で決まる
看護師の採用は、単なる人材確保ではなく、クリニック経営の要とも言える戦略的な取り組みです。とりわけ小規模な医療機関においては、「誰を採用するか」によって、診療の質、患者満足度、スタッフのモチベーション、さらには医業収益までもが変わってきます。
本記事でご紹介したように、採用活動は以下の要素が重要です。
- 求める人物像の明確化と媒体選定
- 応募導線と求人情報の工夫
- 採用にかかる“見えないコスト”の可視化
- 医療事務との連携と役割分担
- 入職後の教育・定着支援の強化
これらをひとつずつ丁寧に整えていくことで、看護師の「採れない・辞める」を防ぎ、「選ばれ・定着する」職場づくりが実現します。
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