オンライン診療は導入する?手続きやメリットをご紹介|クリニック開業
オンライン診療は当たり前の時代へ
近年、医療を取り巻く環境は大きく変化し、特にオンライン診療はクリニックの新たな提供スタイルとして定着しつつあります。新型コロナウイルス感染症の流行を契機に急速に導入が進み、今では「通院の負担を減らしたい」「感染リスクを避けたい」といった患者ニーズに応える選択肢として注目を集めています。
2022年からはオンライン診療が原則恒久化され、初診からの対応や報酬体系の整備も進みました。こうした流れのなか、開業時からオンライン診療を視野に入れておくことは、時代に即したクリニック運営を実現するうえで非常に重要です。
本記事では、クリニック開業時におけるオンライン診療の導入可否の判断材料として、制度の現状、導入のメリット・デメリット、そして手続き方法までを分かりやすく解説します。
1.オンライン診療とは?その定義と現状
オンライン診療の定義とは
オンライン診療とは「情報通信機器を活用した診療行為」であり、医師と患者が対面せずに遠隔で行う診察を指します。電話だけの「電話診療」とは異なり、オンライン診療は原則としてビデオ通話を利用した診察で、患者の状態把握を可能とする手段が求められます。
オンライン診療制度の変遷
オンライン診療はもともと2018年に診療報酬上に位置づけられましたが、普及率は限定的でした。大きな転機となったのは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大です。感染防止策として、初診も含めたオンライン診療の特例が認められ、多くのクリニックが対応に踏み切りました。
さらに、2022年にはこの特例的な制度が一部恒久化され、2024年度診療報酬改定においても、対象疾患の拡大や初診からのオンライン対応が明文化されるなど、今後のスタンダードな医療の一部として定着が見込まれています。
オンライン診療の利用状況
厚生労働省が出す「令和5年1月~3月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」によると、2023年時点で電話や情報通信機器を用いた診療を実施できるとして登録した医療機関数は18,121施設に上ります。今後は開業時からオンライン診療の選択肢を持つことが、患者に選ばれる要素となる可能性も高いでしょう。
2.オンライン診療を導入するメリットとデメリット
メリット 患者・クリニック双方に恩恵あり
患者にとってのメリット
通院負担の軽減:高齢者や子育て世代、慢性疾患の通院など、移動の手間が省けます。
感染リスクの低減:コロナウイルスのみでなく、インフルエンザや風邪などあらゆる感染症への予防対策として、安心して受診できる手段です。
医療側のメリット
業務効率化:一定の患者層をオンラインに振り分けることで、対面診療の混雑緩和が可能です。
遠隔地・再診対応に有効:地域にとらわれない診療提供が可能となり、再診の利便性も向上します。
デメリット 導入時の課題や制限も
患者との信頼構築の難しさ
初診からの対応には、十分な問診・視診・診療録の作成義務が求められ、オンラインのみでは把握が難しいケースもあります。
システムトラブル・通信障害
安定したインターネット環境が前提のため、機器のトラブルや通信不良が診療の妨げになる場合も。
対象疾患の制限
オンライン診療は基本的に、慢性疾患の再診や軽度な症状に限定されており、すべての患者に適応できるわけではありません。
3.オンライン診療の導入手続きとは?
必要な届け出と申請手順
オンライン診療を導入するには、以下の流れで厚生労働省への届け出が必要です。
1. 医療機関の届出(保健所等に提出)
診療科目に応じて「オンライン診療の実施計画書」を作成し提出。
2. オンライン診療対応医師の研修受講
特に初診から実施する場合、厚労省指定の研修を受講する必要があります。
3. 診療報酬算定のための様式整備
診療録の保存、患者同意書取得、システム環境の要件などを満たす必要があります。
システムやIT環境の整備
オンライン診療を実現するには、医療情報の適切な管理が行える以下のような設備が必要です。
- ビデオ通話システム(医療用推奨)
- 電子カルテ・予約管理連携
- 本人確認・決済対応機能
- 通信の暗号化(TLSなど)
医療機関向けのクラウド診療プラットフォームを利用することで、こうした環境を比較的容易に整備することができます。
スタッフ体制とマニュアル整備
オンライン診療をスムーズに運用するには、受付や看護師などスタッフの役割分担、トラブル時の対応フローなども事前にマニュアル化しておく必要があります。患者からの問合せ対応、予約管理、診療後のフォローアップ体制も重要な視点です。
4.クリニック開業時にオンライン診療を取り入れるタイミング
開業時に同時導入するメリットとは?
クリニックの新規開業にあたって、オンライン診療を開業初期から導入するケースが増えています。その背景には以下のようなメリットがあります。
- 患者に「最先端」の印象を与えるブランディング効果
- 開業時から多様な診療スタイルを提示できる柔軟性
- 診療予約や問診のオンライン化による初期業務の効率化
特に、若年層や子育て世代をターゲットにする内科・小児科などでは、利便性の高い診療体制を整備することが差別化に繋がります。
開業後に段階的に導入するケース
一方で、開業直後は診療体制やスタッフオペレーションの安定が優先となるため、オンライン診療の導入をあえて見送るケースもあります。
- 対面診療体制の確立を優先しやすい
- 経営状況や患者層の傾向を見てから判断可能
- 診療報酬や制度動向を把握した上で導入できる
特に初開業の医師にとっては、ある程度の患者数・オペレーションの安定を見てから、段階的に導入する選択肢も現実的です。
どちらが正解?選ぶ際のポイント
導入タイミングは、診療科、地域のニーズ、開業資金、スタッフのITリテラシーなど多くの要素に左右されます。
- 開業エリアに若年層・子育て世代が多いか
- 診療時間外・訪問困難な患者層の存在
- スタッフ体制や機器環境に余裕があるか
これらの要素を踏まえて、戦略的に導入のタイミングを検討することが重要です。
5.オンライン診療に必要な設備・IT環境とは
オンライン診療を安全かつ円滑に行うためには、制度で定められた一定のIT設備・セキュリティ環境を整備する必要があります。
必要な機器・ソフトウェア
オンライン診療を行うには、医療情報の取り扱いに適した以下の設備が必須となります。
- パソコンまたはタブレット端末
- 高画質のWebカメラとマイク
- 医療用オンライン診療プラットフォーム
- 電子カルテや予約管理システムとの連携機能
これらの設備は、患者と医師双方の信頼関係を保つ画質・音質が重要視されます。
通信セキュリティと個人情報保護
オンライン診療では、医療情報・個人情報の漏洩リスクを最小限にするための措置が求められます。
- 通信の暗号化(SSL/TLS対応)
- データ保存に関するガイドライン遵守
- アクセス制御・ログ記録など管理体制の整備
また、患者本人の同意確認(署名・録音)や、診療記録の保管義務にも対応できる仕組みが必要です。
システム運用の課題と対応
IT設備の導入だけでなく、実際の診療運用に際しては以下のような対応も不可欠です。
- 通信障害・映像トラブル時の代替手段(電話等)の整備
- 患者への使い方説明や事前テスト対応
- スタッフへの基本操作研修
これらをマニュアル化しておくことで、トラブル時にも対応しやすい体制が築けます。
6.診療科別のオンライン診療活用の違い
オンライン診療は、すべての診療科で等しく活用できるわけではありません。ここでは主要な診療科ごとの導入傾向や特徴を見てみましょう。
精神科・心療内科
- 導入率が最も高い分野のひとつ
- 対面による身体診察が少なく、視覚・聴覚を通じたコミュニケーションが中心のため、オンラインとの親和性が高い
- 初診からの導入も一定の条件で可能
皮膚科・内科
- 軽症の皮膚トラブルや、慢性疾患(高血圧・糖尿病など)の再診管理に有効
- ただし、初診や視診が困難な部位では画像の精度に課題あり
- 写真送信+ビデオ通話など、複合的な対応が必要
産婦人科・小児科
- 妊娠中の相談、子どもの発熱・軽症時のフォローに活用される
- 一方で、急変の可能性や発達評価には対面が基本
- 利便性とリスク管理のバランスが重要な診療科
対応の柔軟さと限界を理解することが鍵
オンライン診療の活用は、診療科や疾患の性質によって適否が異なります。あくまで対面診療の代替ではなく補完として位置づけることが、継続的な活用の鍵となります。
7.オンライン診療の費用・報酬(診療報酬点数)
オンライン診療を導入するにあたって、収益への影響は重要な検討材料です。ここでは、オンライン診療に関わる診療報酬体系と費用について整理します。
診療報酬の基本構造
オンライン診療における診療報酬は、基本的に対面診療とは異なる報酬項目が設定されています。主なものは以下の通りです(※2024年度診療報酬改定時点)。
- オンライン診療料(再診): 73点(730円相当)
- 情報通信機器を用いた初診料: 250点(2,500円相当)
- 服薬指導・処方料も別途算定可能
いずれも、患者からの事前同意やオンライン診療計画書の作成・保存など、要件を満たすことが条件となります。
コストと収支への影響
オンライン診療は、患者数を拡大しやすい一方で、以下のような費用も発生します。
- 初期投資(機器・システム導入費): 数万~数十万円
- 月額利用料(クラウドサービス等): 1万~3万円程度が一般的
- スタッフ研修・運用マニュアルの整備コスト
ただし、再診の一部をオンライン化することで診療効率を高め、結果的に患者数・診療回転率を向上できる可能性もあります。収益性だけでなく、全体の業務効率化を含めて判断することが重要です。
8.成功するオンライン診療の運用ポイント
単に導入するだけではなく、運用の質を高めることがオンライン診療の成否を分けます。ここでは、成功するための実践的ポイントを紹介します。
予約導線をスムーズにする
オンライン診療に適した予約導線を構築することが、患者利用率を大きく左右します。
- Web予約システムとの連携
- LINE公式アカウントを使った予約受付やリマインド送信
- 問診機能と連動した事前情報取得
患者が迷わず利用できる仕組みを設計することで、導入効果を最大化できます。
スタッフの教育とマニュアル整備
現場スタッフの理解と協力が不可欠です。とくに以下のような対応を標準化しておくとトラブル時も安心です。
- 患者からの接続トラブル対応フロー
- 受付時のオンライン診療案内・注意点説明
- システムの基本操作・ログ取得の手順
属人化を防ぐ体制づくりが、長期的な運用を支えます。
患者との信頼関係構築
オンライン診療では、患者との距離感が生まれやすく、信頼形成がやや難しくなります。以下のような工夫が効果的です。
- 診療中の丁寧な説明と傾聴姿勢
- 処方後のフォローアップ(電話やLINE)
- 初回診療時に「今後オンラインでも対応可能」と伝えておく
「オンラインでも安心して任せられる医師」と思ってもらうことがリピートに繋がります。
まとめ|開業時の新常識、オンライン診療をどう捉えるか
クリニック開業において、オンライン診療は“検討すべき一手”から“当たり前の選択肢”へと進化しています。感染対策や利便性の向上はもちろん、医療の提供方法としての多様化が、患者と医療者双方に新たな可能性をもたらします。
ただし、すべての診療科・すべてのケースに適応できるわけではなく、制度・機器・スタッフ体制の整備が不可欠です。タイミングや導入範囲を見極め、経営戦略と照らし合わせた導入計画を立てましょう。
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