
【令和8年度改定】外来・在宅ベースアップ評価料、クリニックへの影響
1.ベースアップ評価料の目的
ベースアップ評価料とは、医療従事者の賃上げを目的として設けられた診療報酬の仕組みです。医療機関がスタッフの給与改善を行うための財源を確保できるよう、診療報酬の中に新たな評価項目として設けられました。
医療業界では看護師や医療事務などの人材不足が課題となっており、処遇改善による人材確保が重要とされています。ベースアップ評価料は、医療機関がスタッフの賃上げを継続的に行える環境を整えることを目的としています。
2.令和8年度改定「外来・在宅ベースアップ評価料」のポイント
令和6年度(2024年度)の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを目的として「ベースアップ評価料」が新設されました。令和8年度診療報酬改定では、この制度が拡充され、評価点数の引き上げや評価区分の拡大が行われています。

出典:厚生労働省ホームページ「令和8年度診療報酬改定について【全体概要版】」
クリニックに関係する制度としては「外来・在宅ベースアップ評価料」があります。これは外来診療や在宅診療を行う医療機関が算定できる診療報酬で、医療従事者の賃上げ原資を確保することを目的としています。
ポイントとなるのは、令和8年から賃上げを行う医療機関と、それ以前から賃上げを継続的に行っている医療機関とで、点数が異なるところです。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)
令和8年から新規で賃上げを行う医療機関
| 項目 | 令和8年5月まで | 改定後 令和8年6月~令和9年5月 | 令和9年6月~ | |
| 1.初診時 | 6点 | 17点 | 34点 | |
| 2.再診時 | 2点 | 4点 | 8点 | |
| 3.訪問診療 | (イ)同一建物居住者等以外 | 28点 | 79点 | 158点 |
| 上記(イ)以外の場合 | 7点 | 19点 | 38点 | |
令和6・7年に賃上げを実施し、令和8年以降も継続して行う医療機関
| 項目 | 令和8年5月まで | 改定後 令和8年6月~令和9年5月 | 令和9年6月~ | |
| 1.初診時 | 6点 | 23点 | 40点 | |
| 2.再診時 | 2点 | 6点 | 10点 | |
| 3.訪問診療 | (イ)同一建物居住者等以外 | 28点 | 107点 | 186点 |
| 上記(イ)以外の場合 | 7点 | 26点 | 45点 | |
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の点数(令和8年度)
賃金のさらなる改善が必要である医療機関に勤務する、幅広い職員の人材確保及び確実な賃上げを実施する観点で、賃上げの規模に応じて追加で算定できる制度として「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)」の点数も上がります。

出典:厚生労働省ホームページ「令和8年度診療報酬改定について【全体概要版】」
この制度では医療機関が実施した賃上げ額に応じて区分が設定されており、区分が上がるほど算定できる点数が増える仕組みになっています。令和8年度改定では、この評価区分が8区分から12区分へ拡大されました。賃上げ額が大きい医療機関ほど高い区分を算定でき、診療報酬の評価も高くなる仕組みになっています。
3.ベースアップ評価料が導入された背景

医療従事者の賃上げ政策
ベースアップ評価料が導入された背景には、医療従事者の処遇改善があります。医療現場では長時間労働や人材不足が続いており、看護師や医療事務などの離職が課題となっています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により、医療従事者の負担の大きさが社会的に認識されるようになりました。こうした状況を踏まえ、国は医療従事者の賃上げを進める政策を打ち出しています。
ベースアップ評価料は、医療機関が賃上げを行うための財源を確保する仕組みとして、診療報酬制度の中に導入されました。
診療報酬改定とベースアップ評価料
診療報酬は原則として2年に1度改定され、医療機関の収入に大きく影響します。ベースアップ評価料も診療報酬改定の中で新設された制度です。
従来は補助金による支援が中心でしたが、診療報酬として制度化されたことで、医療機関が継続的に人件費を確保できる仕組みが整えられました。クリニックでも算定が可能であるため、スタッフの給与改善や人材確保の観点から、制度の理解が重要になります。
補助金との違い
ベースアップ評価料は補助金とは性質が異なります。補助金は期間や申請条件があり、一時的な支援となることが一般的です。一方、ベースアップ評価料は診療報酬の一部として算定されるため、要件を満たせば継続的に収入として得ることができます。そのため、クリニック経営においては、補助金よりも安定した人件費財源として位置づけられる制度といえます。開業を検討する医師にとっても、こうした制度を理解したうえで人件費計画を立てることが重要です。
4.クリニック経営への影響

ベースアップ評価料の導入と点数引き上げは、クリニック経営にも一定の影響を与える制度です。特に人件費の割合が高いクリニックでは、スタッフの給与設計や採用戦略にも関係してきます。
スタッフ給与への影響
ベースアップ評価料は、医師以外の医療従事者の賃上げを目的として導入された制度です。そのため、算定した診療報酬は看護師や医療事務などの給与改善に充てることが前提となっています。
クリニックでは看護師や医療事務などのスタッフが診療を支えており、人件費は経営において大きな割合を占めます。近年は医療業界全体で人材不足が続いており、給与水準の改善はスタッフの定着や採用にも大きく影響しています。
ベースアップ評価料は、こうした賃上げの原資を診療報酬で確保する制度として設計されています。令和8年度改定では点数が引き上げられたことで、医療機関が賃上げを行いやすい環境が整えられました。
人材採用への影響
医療機関では看護師や医療事務の採用が年々難しくなっており、特にクリニックでは人材確保が経営課題となっています。給与水準や働きやすい職場環境は、採用活動において重要な要素です。ベースアップ評価料は、医療従事者の処遇改善を支援する制度として設けられているため、クリニックにとっても人材確保の観点で重要な制度となります。賃上げを実施することでスタッフの定着率を高める効果も期待できます。
また、医療業界では他業種との人材獲得競争も激しくなっています。クリニック経営では、給与だけでなく勤務時間や業務負担なども含めた働きやすい環境づくりが求められます。
医療機関の経営構造の変化
診療報酬制度は医療機関の経営に大きく影響します。ベースアップ評価料のような制度が導入されることで、人件費の考え方にも変化が生まれています。
従来は人件費を抑えることで経営を安定させる考え方もありましたが、現在は人材確保のために一定の給与水準を維持することが重要になっています。医療従事者の処遇改善は国の政策としても進められており、今後も賃上げを支援する制度が検討される可能性があります。クリニック経営では、診療報酬制度を理解したうえで長期的な人件費計画を立てることが重要です。
5.クリニックが今から準備しておくべきこと

人件費について
クリニック経営において、人件費は最も大きな固定費の一つです。看護師や医療事務などのスタッフの給与は、診療体制の維持に直結するため、開業前から十分検討しておきましょう。
ベースアップ評価料のように、医療従事者の賃上げを支える制度が導入されている一方で、実際の給与水準は地域や診療科によっても異なります。そのため、周辺医療機関の給与水準や採用状況なども参考にしながら、人件費計画を立てることが重要です。
また、クリニックでは少人数のスタッフで診療を支えるケースが多く、1人の離職が診療体制に大きく影響する場合もあります。給与だけでなく、働きやすい職場環境や業務体制の整備も、人材定着のための重要な要素となります。
診療報酬改定の情報収集
医療機関の収入の多くは診療報酬によって決まるため、診療報酬改定の情報を把握することはクリニック経営にとって非常に重要です。診療報酬は原則として2年ごとに見直されるため、制度の変更によって収入構造が変わる可能性があります。
ベースアップ評価料のように、医療従事者の処遇改善を目的とした制度は、今後の改定でも議論が続く可能性があります。令和8年度改定においても制度の見直しや調整が行われる可能性があるため、医療政策の動向を把握しておくことが重要です。
開業を検討している医師にとっては、医療制度の理解も事業計画の一部となります。制度の変更に対応できる経営体制を整えておくことで、長期的に安定したクリニック運営につながります。
開業時の資金計画
クリニック開業では、内装費用や医療機器の導入費用など、さまざまな初期投資が必要になります。これらの費用に加えて、人件費を含めた運転資金も確保しておくことが重要です。
開業直後は患者数が安定しないことも多く、収入が安定するまで一定の期間が必要になる場合があります。そのため、開業時には数か月分の人件費を含めた資金計画を立てておくことが一般的です。
また、診療報酬制度や医療政策の動向も踏まえたうえで事業計画を作成することが重要です。ベースアップ評価料のような制度を理解しておくことで、より現実的な経営計画を立てることが可能になります。
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