クリニックの診療予約システム、導入メリットやポイントは?
近年、クリニックにおける業務の効率化と患者満足度の向上を目的として、「診療予約システム」の導入が進んでいます。とくに2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、来院時の接触機会を減らすための「非接触対応」が求められる中、Web予約や自動リマインド機能を持つ診療予約システムの価値が高まりました。
厚生労働省「医療DXの推進に関する取り組み」でも、診療予約や問診などのオンライン化は、医療提供体制の質の向上と業務負担軽減の観点からも注目されています。これらの流れを背景に、診療予約システムは「あると便利」から「導入すべき仕組み」へと変化しつつあります。
本記事では、導入の背景から基本機能、具体的なメリット・デメリット、比較検討のポイントまでを整理しご紹介します。クリニック開業を検討している方や、既存院で予約管理の改善を図りたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1.クリニックで診療予約システムを導入する背景と課題
電話予約の限界
従来のクリニックでは、予約受付を電話で対応するケースが主流でした。電話予約は患者と直接会話できる利点がある一方で、以下のような課題が指摘されています。
- 業務時間中に電話対応が集中し、受付スタッフの負担が増大
- 予約の聞き間違い・伝え間違いによるトラブル
- 診療時間中も電話が鳴り続け、院内オペレーションが滞ることもある
このような状況は、患者・スタッフ双方にとってストレスとなるだけでなく、業務効率の低下を招く要因となっています。
患者ニーズの変化
一方、患者側のニーズも変化しています。特に若年層や働く世代を中心に「24時間いつでもスマートフォンで予約を取りたい」という需要が高まっており、オンライン予約機能を持たない医療機関に対しては利便性の低さを感じる傾向があります。
患者の利便性と医療機関の業務効率の両立を実現する手段として、診療予約システムの導入が注目されているのです。
2.診療予約システムの基本機能とは?
診療予約システムは、単なる「予約の受付」だけではなく、クリニック運営全体を効率化する多様な機能を備えています。導入の際は、これらの機能の有無や範囲を確認することが重要です。一般的な診療予約システムに搭載されている基本機能を紹介します。
予約受付とキャンセル管理
最も基本的な機能として、Webサイトやスマートフォンからの「24時間オンライン予約受付」が挙げられます。患者は診療時間内に限らず、都合の良いタイミングで予約を取ることができ、利便性が大幅に向上します。
予約方法は、時間帯指定や診療メニューごとの設定が可能で、初診・再診の区別や診療科別の対応も行えます。また、キャンセルや変更もオンラインで手続きできるため、クリニック側の電話対応の手間を大きく減らすことができます。
一部のシステムでは、一定時間前までのキャンセルルールや、無断キャンセル防止のアラート機能なども実装されています。これにより、当日キャンセルによる空き枠の有効活用や、再予約の促進が可能です。
問診・来院前情報の取得
診療予約とあわせて、Web問診の機能を搭載しているシステムも増えています。患者は来院前にスマートフォンやパソコンで問診に回答することができ、クリニック側では事前に内容を確認し、スムーズな診察を行うことができます。
この機能により、受付での記入作業を省略でき、待ち時間の短縮にもつながります。さらに、医師が事前に患者情報を把握できることで、より的確で迅速な診療が可能になる点も利点です。
3.診療予約システム導入の主なメリット
診療予約システムの導入は、患者の利便性を高めるだけでなく、院内業務の効率化や経営面での安定にもつながります。この章では、クリニックにおける主な導入メリットを3つの視点から解説します。
患者の利便性向上
最も大きなメリットは、患者の利便性が格段に向上する点です。前述の通り、従来の電話予約では、診療時間内に連絡を取る必要があり、仕事や家事で忙しい患者には大きな負担でした。診療予約システムの導入により、24時間いつでもスマートフォンやPCから予約・変更・キャンセルができるようになり、こうした負担を解消できます。
特に、忙しい働き世代や子育て中の患者から高い支持を得ています。
受付業務の効率化
予約のデジタル化により、クリニックの受付業務は大きく効率化されます。電話対応の件数が減少するため、スタッフが本来の業務に集中しやすくなり、ヒューマンエラーのリスクも低下します。
また、予約台帳の管理や確認作業が自動化されることで、ダブルブッキングの防止や、患者情報の一元管理が可能になります。導入済みのレセプトコンピューターや電子カルテと連携するシステムも多く、業務全体のデジタル化が加速するきっかけにもなります。
ドタキャン・予約忘れの防止
多くの診療予約システムでは、予約前日や当日に自動でリマインドメールやSMSを送信する機能が用意されています。これにより、患者の「うっかり忘れ」やドタキャンを防ぐ効果が期待できます。
特に、予約枠に限りがある小規模なクリニックにとっては、1件のキャンセルが診療効率に直結します。リマインド機能の活用は、患者とのコミュニケーションを円滑に保つだけでなく、キャンセル枠の再活用にもつながる重要な要素です。
4.診療予約システム導入のデメリット・注意点
診療予約システムには多くの利点がありますが、一方で導入に際しては慎重に検討すべきデメリットや注意点も存在します。導入後のトラブルを避けるためにも、以下のような観点から準備を進めることが重要です。
高齢者やITに不慣れな層への配慮
オンライン予約が普及する一方で、特に高齢者やスマートフォン・PCに不慣れな患者にとっては、システムの使用が難しいケースもあります。予約方法がオンラインのみであった場合、一定の層を取りこぼすリスクがある点は注意が必要です。
そのため、診療予約システムを導入する際は、電話予約との併用や、受付でのフォロー体制を整えるなど、オフラインの窓口を残す配慮が求められます。とくに地域密着型のクリニックでは、患者の年齢構成を踏まえた運用方針を検討することが重要です。
また、システム画面のデザインが直感的でわかりやすいことも、患者の利用促進に直結します。導入前には、実際の予約画面やUI(ユーザーインターフェース)を事前に確認することをおすすめします。
導入コストと運用コスト
診療予約システムの導入にあたっては、初期費用や月額利用料が発生します。システムによっては、初期費用が無料のクラウド型サービスもありますが、高度なカスタマイズや外部連携機能を利用する場合には追加費用が必要になることもあります。
また、予約システム単体ではなく、電子カルテやレセプトコンピューターなどとの連携を前提としたパッケージの場合は、全体の運用コストが高くなる傾向も見られます。コスト面の比較検討を行う際は、単なる月額料金だけでなく、以下のようなポイントも確認することが重要です。
- 初期設定費(アカウント開設、設定サポート)
- オプション機能の料金(リマインド、Web問診など)
- サポート体制の有無(電話・チャット対応)
導入後に「思ったより費用がかさむ」と感じるケースを避けるためには、導入前の段階で見積内容を細かく精査しておくことが求められます。
5.比較検討すべき診療予約システムのポイント
診療予約システムの導入を検討する際、単に「価格」や「知名度」だけで判断するのは避けるべきです。クリニックの規模や診療体制、地域性によって必要な機能や連携範囲は異なるため、慎重な比較検討が求められます。
クラウド型かオンプレ型か
予約システムには大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型(自社サーバー設置型)」があります。最近はクラウド型を導入するクリニックも増えてきております。
クラウド型
インターネット環境があれば利用可能で、サーバー設置が不要。初期費用を抑えられ、バージョンアップも自動で行われる利便性がある。
オンプレミス型
自社内にサーバーを設置する方式で、セキュリティやカスタマイズ性が高い。ただし導入・維持にコストと手間がかかる。
クリニックのITリテラシーや、データ管理に対する方針によって適した方式は異なります。特にセキュリティや院内ネットワークに強いこだわりがある場合は、オンプレミス型の検討も必要です。
機能範囲の確認(問診連携、リマインドなど)
診療予約システムには、予約管理にとどまらず、以下のような機能を搭載した製品もあります。
- Web問診連携: 事前に患者の情報を取得し、診察の効率化を図る
- リマインド通知: 来院前にメールやSMSで自動通知を送信
- 混雑状況表示: 待ち時間をリアルタイムで表示し、院内の混雑緩和に活用
ただし、これらの機能が「標準搭載」なのか「オプション」なのかは製品によって異なります。また、実際に運用する際に必要となる細かな設定(通知文のカスタマイズ、患者属性に応じた設定など)が可能かも重要な比較ポイントです。
外部サービスとの連携性(電子カルテ等)
近年では、診療予約システムと電子カルテ・レセプトコンピューターとの連携を想定した製品が増えています。こうした連携機能を利用することで、患者情報の入力の二重手間を避けたり、診療履歴と予約状況を一元的に把握することが可能になります。
また、LINE公式アカウントやGoogleカレンダーと連携することで、患者への情報発信や院内スタッフとのスケジュール共有にも役立てられます。将来的な拡張性を見越して、他システムとの連携が可能かどうかを事前に確認することは非常に重要です。
6.導入時に活用できる補助金や制度
診療予約システムの導入には、初期費用や月々のランニングコストがかかります。少しでも費用を抑えたいと考える開業医にとって、公的な補助制度を活用することは有効な選択肢のひとつです。
2025年度も、クリニックなどの中小事業者向けに、ITツールの導入を支援する「IT導入補助金」が実施されています。診療予約システムをはじめとしたクラウドサービスやWeb問診ツール、セキュリティ対策ソフトなどが対象となっており、条件を満たせば導入費用の一部が補助される仕組みです。
また、医療機関の新規開設や地域医療の充実を目的とした支援策を設けている自治体もあります。たとえば、設備投資やIT機器の導入に対して補助金が出るケースもあり、開業地の自治体に確認してみるとよいでしょう。
これらの制度は、募集期間や対象条件が年ごとに変わることがあるため、開業準備の早い段階から情報収集を始めることがポイントです。診療予約システムの選定とあわせて、補助金制度の活用も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
7.メディシーの開業支援と診療予約システム選定サポート
診療予約システムの導入を検討する際、「何を基準に選べばよいかわからない」と悩む開業予定医は少なくありません。機能や料金体系、外部システムとの連携の可否など、検討すべきポイントが多いため、導入時には信頼できる専門家の支援があると安心です。
クリニックの開業支援を専門とする「メディシー」では、開業計画の立案から物件探し、資金計画の構築、医療機器の選定に至るまで、幅広いサポートを行っています。その一環として、IT環境構築や診療予約システムの選定に関する相談にも対応しており、導入に向けた準備段階から運用開始後まで、現場に即した支援が受けられます。
自院に最適な予約システムを導入したいと考えている方にとって心強い存在です。導入や運用に不安がある場合は、開業支援のプロフェッショナルに一度相談してみるのも有効な方法です。
8.まとめ
診療予約システムは、単なる予約管理ツールではなく、患者満足度の向上やクリニック業務の効率化、安定した運営の実現に寄与する重要な仕組みです。とくに近年では、患者の行動様式の変化や医療DXの推進により、オンライン予約やWeb問診、リマインド機能のニーズが高まっています。
一方で、導入にはコストや運用面の課題もあるため、自院の診療体制や患者層を踏まえた慎重な選定が求められます。各製品の機能やサポート体制、外部システムとの連携性を確認したうえで、自院に最適なシステムを選ぶことが重要です。
診療予約システムの導入を含めたクリニック開業に不安がある方は、クリニック専門の開業支援サービス「メディシー」への相談も検討してみてください。初期設計からIT導入まで、実践的な視点で開業をサポートします。