
クリニック承継か、ゼロからの開業|メリットデメリットを紹介
1.クリニック開業の2つの選択肢|承継と新規開業とは?
クリニック開業には大きく分けて「承継開業」と「ゼロからの新規開業」の2つの選択肢があります。どちらも医師として独立するという目的は共通ですが、準備内容や必要なスキル、リスクとチャンスの在り方は大きく異なります。
クリニック承継とは?引き継ぐスタイルの概要
クリニック承継とは、すでに診療を行っている医師からそのクリニックを引き継ぐ形で開業する方法です。物件や医療機器だけでなく、既存の患者・スタッフ・診療体制を含めて継承するケースが多く、いわば“クリニックをそのまま引き継ぐ”イメージに近い方法です。
この方法では、「医療法人の承継」または「個人開業の事業譲渡」など、法的・財務的なスキームも重要になります。地域医療の継続や患者の受診環境を守るという観点からも注目されているスタイルです。
ゼロからの開業とは?自分で一から立ち上げる方法
ゼロからの開業とは、物件探しから内装、機器選定、スタッフ採用、集患戦略に至るまで、すべてを自分で計画し、設計していくスタイルです。自分のビジョンを100%反映できる自由度の高さが特徴で、「こういうクリニックを作りたい」という明確な構想を持つ医師に選ばれています。
一方で、設備導入やマーケティング、人事などの経営スキルが求められる点、開業初期の集患に苦戦する可能性など、チャレンジ性も高くなります。
2.承継と新規開業、それぞれのメリット・デメリット
どちらの開業方法も一長一短があり、「どちらが良い」と一概に言えるものではありません。それぞれの特性を正しく理解した上で、自身のビジョンやライフスタイルに合う方法を選択することが大切です。
承継のメリット
- すでに確立された患者層・地域との信頼関係を引き継げる
- スタッフや設備など、インフラが整っていることが多い
- 開業初期から一定の売上を確保できる可能性がある
承継のデメリット
- 前院長の診療スタイルを引き継ぐ必要があり、自由度が制限される場合もある
- 設備や内装が古いままの場合は、追加投資が必要
- 承継価格や契約条件が不透明なこともあるため、慎重な調査が必要
新規開業のメリット
- 自身の理想に沿ったクリニックを一から設計・構築できる
- 最新の医療機器やシステムを導入しやすい
- ブランディングや診療スタイルをゼロから構築可能
新規開業のデメリット
- 診療圏調査・物件探し・内装設計など、準備に時間と労力がかかる
- 開業直後は患者数が安定せず、収益化まで時間を要する
- 医師としての能力だけでなく、経営者としてのスキルが求められる
向いているドクターの特徴
承継が向いているドクター
- 地域密着型で安定した経営を早期に目指したい方
- 開業資金をできるだけ抑えたい方
- 診療スタイルの変更にあまりこだわりがない方
新規開業が向いているドクター
- 自分の理想とするクリニックを作りたい方
- 自由な診療スタイルを追求したい方
- 新しいエリアや分野での挑戦に意欲のある方
3.クリニック承継の流れと注意点
承継開業は、既存の経営資源を引き継ぐ点で効率的な方法ですが、慎重な調査と準備が必要です。ここでは、承継開業を進める際の一般的な流れと、注意すべきポイントを解説します。
承継に必要な主なステップ
承継先の候補を探す
医療専門のM&Aサイトや、開業支援企業、医師会などを通じて情報を収集します。物件・設備・患者数などの現況調査
現地を訪問し、設備の老朽化や患者属性、地域の医療ニーズを確認します。財務状況・契約条件の確認
収支状況や負債の有無、リース契約などを含めて、第三者による精査(デューデリジェンス)を行うことが望ましいです。譲渡契約の締結・開業準備
合意に至ったら契約を結び、名義変更・保健所手続き・スタッフとの面談などを進めます。運営スタート・地域医療との連携構築
承継後はスムーズに診療を開始しつつ、地域住民や医療機関との関係づくりにも注力が必要です。
トラブルを避けるために注意すべきこと
設備や建物の状態を確認
老朽化が進んでいる場合、リフォーム費用がかさむことがあります。スタッフとの関係性
前院長との信頼関係で維持されていた職場環境が、引き継ぎ後に変化するケースもあります。十分な面談やコミュニケーションが重要です。契約条件を明文化すること
「口約束」に依存せず、退職金・引き継ぎ期間・在庫の扱いなど、詳細を文書に残すことが必須です。
承継後の地域・患者との関係構築も重要
承継開業では、診療を開始してすぐに一定の患者が来院する可能性がありますが、信頼関係が築かれているわけではありません。患者や地域住民に対して、新院長としての方針や姿勢を丁寧に伝え、安心感を持ってもらうための取り組みが求められます。
4.ゼロからの開業を成功させるポイント
ゼロからの開業は自由度が高い一方で、あらゆる意思決定と準備を自ら行う必要があります。成功のためには、計画的な準備と専門的なサポートが不可欠です。
立地・診療圏調査の重要性
クリニック経営において、立地は最重要要素のひとつです。診療圏調査により、想定される来院患者数や競合状況を把握できます。たとえば、半径500m〜1km圏内の人口動態や他の医療機関との距離、診療科の偏りなどを数値で把握することで、需要と供給のバランスを見極めることができます。
需要のあるエリアであっても、近隣に同じ診療科が複数ある場合や、交通の便が悪い場合は集患が難しくなるケースもあります。診療圏調査の結果は、銀行や自治体への開業資金相談・申請時にも説得材料となるため、客観的な根拠に基づいた立地選定が不可欠です。
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エリアごとの人口動態や年齢分布、競合分布、医療ニーズなど詳細分析が可能です。
どのエリアなら適切か、検討中のエリアが問題ないか?など、
ぜひお気軽にお問合せください。
コンセプト設計とマーケティング戦略
ゼロからの開業では、院長自身がクリニックのコンセプトを明確に設計し、ターゲットとなる患者層に訴求していく必要があります。
「小児科+発達相談の専門外来」「女性専用の内科外来」「働く世代向けの夜間診療」など、地域のニーズに合った差別化要素を盛り込むことが重要です。
マーケティング面では、WebサイトやSNS、Googleマップ、LINE公式アカウントなどを活用した情報発信が基本となります。開業前からプレ告知を行い、地域住民との接点を作っておくと、スムーズな立ち上がりが期待できます。
資金計画とスタッフ採用の注意点
ゼロからの開業では、物件取得費・内装工事費・医療機器・広告費など、多額の初期投資が必要になります。開業費用は診療科によって異なりますが、一般的には3,000〜7,000万円程度が目安とされます。
自己資金だけでの開業が難しい場合、銀行融資やリース制度を活用することも検討しましょう。その際にも、事業計画書と収支シミュレーションが求められます。
また、スタッフ採用も重要なステップです。理念に共感し、地域に密着した医療を共に提供できるスタッフを選定し、待遇や働き方にも配慮することで、定着率の高い職場づくりが可能となります。
5.承継と新規開業、どちらを選ぶべきか?判断の軸とは
「承継か新規か」を選ぶにあたっては、医師としての経験値や価値観だけでなく、家族や地域、資金状況など、複合的な視点から判断することが重要です。
将来ビジョンとライフスタイルで考える
たとえば、「将来的に医療法人化を目指したい」「自分のペースで地域医療に取り組みたい」など、将来ビジョンが明確な場合、それに適した開業スタイルを選ぶことが成功への近道です。
開業地の地域性も判断材料となります。たとえば都市部では新規開業が困難な一方、郊外や地方では後継者不在により承継案件が増加しています。住環境・通勤距離・家族との生活も考慮すべきポイントです。
経営スキルや経験の有無
これまで勤務医として臨床に専念してきた医師にとって、いきなり経営者になることは大きな変化です。新規開業ではマーケティング・人事・収支管理といった多岐にわたるスキルが求められます。
一方、承継であれば既存の仕組みを引き継げるため、経営スキルを実地で学びながら独立後のスタイルを確立することも可能です。
資金・時間・リスクで比較する
初期投資が大きい新規開業は、開業後の集患や運営が軌道に乗るまでに時間がかかります。一方で、承継は既存患者による初期の売上がある程度見込めるので、初期投資がかかりにくいと思われがちですが、既存の設備更新費やスタッフ教育など、想定以上にコストが発生することもあります。
どこにリスクを置き、どこに安心材料を求めるかは、個人の価値観によって変わってきます。開業支援の専門家とともに、客観的な視点からの分析を行うことが望ましいでしょう。
6.承継開業に向いているエリア・物件の特徴
承継開業を検討する際には、対象クリニックの立地・エリア特性を冷静に評価する必要があります。特に地域ニーズと競合状況は、今後の経営に大きく影響を及ぼします。
人口構成や医療ニーズがカギ
例えば、少子高齢化が進む地域では、内科や整形外科など高齢者ニーズの高い診療科が求められます。一方、子育て世代の多いエリアでは、小児科や皮膚科、婦人科などの需要が高くなります。
また、人口が集中している都市部では競合が多く、患者の評価も厳しくなりがちです。逆に地方や郊外では競合が少ない分、地域の“かかりつけ医”として長期的な信頼関係を築きやすいメリットがあります。
既存患者層・施設の状態も要チェック
承継の場合、既存クリニックの患者属性(年齢層・通院頻度・主訴の傾向)を把握することは非常に重要です。たとえば慢性疾患の管理が主であれば、継続的な診療収入が見込めます。
また、施設や設備の老朽化具合も確認が必要です。医療機器の更新やバリアフリー改修などが必要な場合、それらを含めた総投資額を見積もっておくべきです。
賃貸or所有といった不動産契約内容、駐車場の有無、近隣住民との関係性なども経営に影響するため、事前にしっかりと調査しておきましょう。
7.承継案件の探し方と注意点|事例から学ぶ選定ポイント
クリニック承継は、事業の“買い手”として主体的に動く必要があります。適切な案件と出会うためには、情報収集と冷静な比較検討が欠かせません。
承継先を探す主な方法とは?
承継案件を探すには、以下のような手段があります。
- 医療専門のM&A・事業承継支援サイト
- 地域医師会や病院ネットワークの紹介
- 医療開業コンサルタントへの相談
- 民間の不動産・医療系仲介会社
特に最近は、インターネットを通じて非公開の案件情報が入手できるサービスも増えており、比較検討の幅が広がっています。
ただし、良い案件は競争率が高いため、情報を得たらすぐに専門家とともに現地確認や条件交渉に動ける体制を整えておくことが重要です。
よくある失敗例と回避策
失敗例1:既存患者の来院が減ってしまうケース
前院長と患者の信頼関係が強く、引き継ぎ後に来院が減少することがあります。承継前から患者へ丁寧に説明をし、理解していただくことが大切です。クリニック承継は、前院長と比較されてしまう部分が少なからずありますので、承継直後はより一層丁寧な対応が必要です。
失敗例2:設備の維持費が想定外に高額だった
承継直後にさまざまな機器にガタが来てしまい、修理や交換で想定外のコストがかかった例も。専門家による機器診断や契約内容の明示が欠かせません。
失敗例3:スタッフの離職が続出した
新体制への不安や待遇変更により、スタッフが退職してしまう事例もあります。面談・説明会などを通じて、安心感を与える工夫が求められます。
検討時に確認すべき項目リスト
- 現在の患者数・年齢層・診療内容
- 建物・医療機器の状態(築年数、耐用年数)
- スタッフの構成・勤続年数・雇用契約条件
- 賃貸物件か自己所有か(借地権等も含めて)
- 電子カルテやレセプトなどIT環境の整備状況
- 財務諸表(直近3年分の収支・負債状況)
- 退職金や未払金などの引き継ぎ負担
これらの詳細情報を事前に確認し、リスクを明確にしたうえで契約交渉を進めることが、成功への鍵となります。
8.メディシーがサポートする承継・新規開業支援
クリニックの承継や新規開業において、検討すべき項目は多岐にわたります。
メディシーの承継支援サービス
メディシーでは、医師同士の承継・譲渡に関するニーズを把握したうえで、希望に沿った承継候補の紹介を行っています。
「何から始めていいかわからない」
「譲渡元との交渉をどうすればいいかわからない」
「条件に合うクリニックが見つからない」
これらに対して、無料相談や、案件のご紹介、情報提供などを通じて支援を行っています。
新規開業支援との違いと強み
新規開業を検討している医師に対しては、立地選定や診療圏調査、事業計画の作成、資金調達、スタッフ採用など、準備段階から運営立ち上げまでトータルで支援を行っています。
承継開業では、既存の資源をどう活用するかが鍵になりますが、新規開業ではゼロからの構築が求められるため、サポート内容も異なります。
メディシーでは、承継と新規開業の両面に対応できる体制があるため、「自分にはどちらが合うかまだ分からない」という段階からの相談も歓迎されています。
9.まとめ|自分に合った開業スタイルを選ぼう
クリニック開業には、「承継」か「ゼロからの新規開業」という2つの方法があります。それぞれに異なるメリット・デメリットがあり、正解は人によって異なります。
重要なのは、自身の経験・ビジョン・ライフスタイルに合った方法を選ぶことです。そのためには、情報収集を行い、リスクを見える化し、専門家のサポートを受けることが不可欠です。
もし、承継と新規開業のどちらで進めるべきか迷っている場合は、まずは中立的な立場でアドバイスをくれる開業支援の専門機関に相談することをおすすめします。