スマホ保険証はいつから?医療機関への導入手順を解説
1.スマホ保険証(マイナ保険証)の登場――医療機関に新たな対応を求める背景
2025年6月、ついに「スマホ保険証」が一般ユーザー向けに提供開始されました。これは、マイナンバーカードと健康保険証を紐付けた「マイナ保険証」を、スマートフォン上で利用できるようにする仕組みです。紙やカードを持ち歩かなくても、iPhoneやAndroid端末にインストールされたマイナポータルアプリを用いて、医療機関の窓口で健康保険の資格確認ができるようになります。
この新しい仕組みに対応するためには、医療機関側にも「オンライン資格確認等システム」の導入が求められます。これまでのように保険証の確認・入力作業を行っていた医療事務ではなく、システムを通じてオンラインで資格情報を取得することが推進されている背景には、以下のような目的があります。
- 窓口業務の効率化
- 誤入力や資格無効によるレセプト返戻の削減
- 適切な医療提供の促進(薬剤情報・特定健診情報の共有)
特に2023年4月以降、オンライン資格確認の導入は原則すべての保険医療機関に義務化されており、対応しない医療機関には診療報酬上の不利益(加算の算定不可など)も発生しています。
このような制度変更の中で、「スマホ保険証」という新たな利用形態が始まったことで、医療機関にとってはさらなる対応の拡充が必要不可欠となっているのです。
2.スマホ保険証はいつから使える?開始のタイミングとスケジュール
まずスマホ保険証の基盤として、iPhoneでマイナンバーカードを利用できるサービスが2025年6月24日に開始しました。
“スマホ保険証”は、2025年9月以降に運用開始予定
現在は一部の医療機関で実証事業(プレ運用)が進められておりますが、厚生労働省の発表によると、正式運用の本格スタートは2025年9月以降、機器の準備が整った医療機関から順次対応可能とされています。
つまり、現時点(2025年8月)では、スマホ保険証機能がスマホ上に存在していても、実際に医療機関で利用することはできません。利用できるのは2025年9月以降かつ、準備が整った医療機関から順次ということです。
3.医療機関が知っておくべき“オンライン資格確認等システム”の導入ポイント
スマホ保険証を医療機関でスムーズに運用するためには、「オンライン資格確認等システム」の導入・整備が前提条件となります。このシステムは、患者のマイナンバーカードを専用のリーダーで読み取り、リアルタイムで保険資格を確認する仕組みです。
すでに保険医療機関にはこのシステムの導入が義務化されており、未導入の場合は以下のような影響が生じます。
- 「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の算定不可
- 薬剤情報・健診情報の閲覧による診療支援の欠如
- 電子的保険証利用者(マイナ保険証・スマホ保険証)への対応困難
オンライン資格確認システム導入の流れ
オンライン資格確認等システムを導入する際のステップです。下記の詳細は厚生労働省HPに記載があります。

出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001016689.pdf)
- 顔認証付きカードリーダーの発注
- システム事業者との契約・機器設置
- 受付番号の取得、利用申請
- 機器受取、設定、運用テスト(受付業務等の確認、患者向け掲示物など準備、保険医療機関等の指定申請)→本番稼働
1. 顔認証付きカードリーダーの発注は、指定申請の3か月前目安、3.番号取得などは指定申請の2か月前目安とされております。また指定申請は、開設の1か月前までとされており、全体で4か月~半年ほどの期間をみておくとよいでしょう。
4.“スマートフォンのマイナ保険証”の使い方
スマホ保険証の利用には、患者側がスマートフォンにマイナンバーカードを搭載するだけでなく、医療機関側でも専用機器やシステムの準備が必須となります。ここでは、医療現場に求められる具体的な「使い方」や導入準備について解説します。
iPhoneでの資格確認の流れ
患者がiPhoneでスマホ保険証を利用する場合、医療機関では以下のような手順で資格確認を行います。
- 患者がマイナポータルアプリを起動し、生体認証またはパスコードを入力
- スマホ用の汎用カードリーダーにかざす
- 同意情報の入力
- 医療機関の端末側で保険資格情報を自動取得
このように、受付スタッフの手間を大幅に削減し、患者の待ち時間も短縮できる運用が可能となります。
5.スマホ保険証利用で期待されるメリットと現場の懸念
スマホ保険証の導入は、医療機関・患者双方にとって数々のメリットがありますが、一方で運用初期には課題や懸念点も残されています。ここでは両面を整理して解説します。
メリット:受付の効率化と患者利便性の向上
保険証の持参忘れ防止
スマートフォンが常に手元にあるため、従来のような保険証忘れによる資格不明・返戻が激減します。
受付業務の簡素化
患者にスマホをかざしていただく簡単な作業なので、受付対応の人件コスト削減・待ち時間短縮につながります。
薬剤情報・健診情報の取得による診療支援
患者の同意が得られれば、過去の処方歴や健診結果を確認でき、診療の質が向上します。
診療報酬加算の継続算定
オンライン資格確認の導入により、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の対象となり得ます。
このように、スマホ保険証の普及は、単なるデジタル化ではなく、医療提供体制の質の向上にも寄与する施策といえます。
懸念点:導入コストや運用トラブルへの備え
システム導入・機器購入のコスト負担
補助制度があるものの、一時的な費用負担が発生するため、特に小規模クリニックにとっては障壁となり得ます。
運用トラブル・患者の使い方へのサポート
高齢者やスマホに不慣れな患者からの質問や操作ミスが増える可能性があります。患者への説明やサポートにまつわるマニュアルを用意しておくことや、受付スタッフへの研修があると安心です。
非対応を巡るトラブルリスク
対応していない医療機関での受付拒否などによるトラブル防止のため、掲示物などで事前周知が重要です。日本医師会のHPなどで、非対応の医療機関であることを伝える掲示用素材も配布されております。
システム障害時の代替手段の整備
通信不良・サーバ障害など万一に備え、保険証持参者との並行対応体制も必要です。
6.スマホ保険証は今後どうなる?医療機関と患者の展望
スマホ保険証の導入は、単なる一時的な施策ではなく、医療のデジタル化・DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として長期的なビジョンの中に位置づけられています。
患者側のメリット拡大が見込まれる
今後、スマホ保険証のさらなる利便性向上が見込まれています。今後患者がスマホ1台で「本人確認」「資格確認」「医療履歴確認」までを完結できるようになれば、医療サービスのパーソナライズ化や利便性向上が一層加速するでしょう。
医療機関側には「選ばれる施設」になるチャンスも
医療機関側にとっては、スマホ保険証対応が進むことで以下のような波及効果も期待できます。
- デジタル対応施設としての信頼感・差別化
- 若年層・子育て世代からの支持獲得
- 人手不足時代における業務効率化の加速
とくに都市部や競争の激しいエリアでは、「スマホ保険証対応」の有無が患者の選定基準となる可能性もあり、今後の医療機関経営においては見過ごせないポイントです。
7.まとめ|スマホ保険証対応でクリニックの未来を切り拓く
スマホ保険証は、単に「保険証を持ち歩かなくて済む」「スマホで済む」だけではなく、医療機関の受付業務・診療体制・患者満足度に直結する本格的な医療DXの第一歩です。
- 制度の流れを正しく理解
- 対応すべきシステムや機器を整理
- スタッフ教育と運用体制を整える
これらを着実に実行することで、トラブルを未然に防ぎ、患者に信頼される医療機関へと進化できます。
対応が義務ではないスマホ保険証こそ、早期に動き出すことで競合との差別化にもつながります。
クリニック開業支援は「メディシー」へ
スマホ保険証の導入検討は、これから開業を目指すドクターも注視すべきポイントです。
メディシーでは、悩めるドクターの開業支援を行っております。機器導入・開業の基礎知識・地域選定など、ご不明な点がございましたらお気軽にお問合せください。