
クリニック損益分岐点の考え方|開業前に押さえたい要点
経営実態データから見るクリニック経営の現状
令和7年12月の「第25回 中医協医療経済実態調査(医療機関等調査)結果報告に対する見解 」によると、直近の診療所(医療法人)の経営状況は非常に厳しい水準にあります。これは損益分岐点を理解するうえでも重要な背景データになります。
診療所の損益率(中央値)はわずか2.7%
この調査では、令和6年度の一般診療所(医療法人)の損益率の中央値が2.7%であったと報告されています。これは、売上から費用を引いた利益が中央値でわずか2.7%しか残らないことを示しています。
中央値が低いことは、平均値よりも多くの診療所が赤字に近い状況であることを反映しています。中央値は、外れ値の影響を受けにくいため、現場の実態をより正確に表す指標として重要です。
半数近い診療所が赤字状態
一般診療所の約37.4%が赤字経営に陥っているという結果も示されています。これは10軒中およそ4軒が収支が合っていない状態にあることを示し、損益分岐点を超える経営がいかに厳しいかを物語っています。
このような高い赤字施設割合は、診療報酬という固定的な売上条件のもと、物価上昇や人件費の増加などのコスト増に対応できていないケースが多いことを示唆しています。固定費や変動費が想定より大きくなると、損益分岐点も上昇し、経営が成立しにくくなります。
人件費・物価などの上昇が要因?
同調査によれば、診療所における人件費(給与費)は前年比で約3.2%増、医薬品費や材料費なども増加しているというデータがあります。これらの費用増加が、限られた診療報酬収入から経営を圧迫している要因のひとつとして挙げられています。
さらに、新型コロナウイルス感染症関連の補助金や診療報酬上の特例の終了による影響もあると言われております。
クリニック経営における損益分岐点とは

損益分岐点の基本的な考え方と計算式
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど等しくなり、利益も損失も出ない状態を指します。
クリニック経営においては、「毎月どの程度の売上を確保すれば赤字を回避できるのか」を示す重要な基準です。
損益分岐点を理解するうえで欠かせないのが、「固定費」と「変動費」という2つの費用区分です。
・固定費
売上や患者数に関係なく、毎月一定額発生する費用
(例:テナント賃料、人件費、医療機器リース料、減価償却費 など)
・変動費
診療量や患者数に応じて増減する費用
(例:医薬品費、医療材料費 など)
これらを前提にした場合、損益分岐点売上高は、
「固定費 ÷(1 − 変動費率)」という考え方で整理できます。
損益分岐点は経営者向けの難しい指標ではなく、「このラインを下回ると資金が減っていく」ことを示す警告灯として捉えることが重要です。
なぜ開業前に損益分岐点を把握すべきなのか
開業後のクリニック経営でよく聞かれる悩みのひとつに、「患者数は少しずつ増えているのに、手元資金が思ったほど残らない」という声があります。
この背景には、開業前に損益分岐点を十分に検討していないケースが少なくありません。
厚生労働省が公表している医療経済実態調査では、診療所経営において人件費や賃料といった固定費が経営に占める割合は高く、一度設定すると短期間での見直しが難しいことが分かります。
つまり、開業後に「想定より厳しい」と気づいても、すぐに改善できない構造になりやすいのです。
そのため、開業前の段階で
- 想定する売上規模
- 毎月確実に発生する固定費
- 患者数が伸び悩んだ場合の耐久力
を把握し、どの水準で経営が成立するのかを数字で確認しておく必要があります。
損益分岐点を事前に把握しておけば、「この条件で開業して本当に安全か」「どこを調整すればリスクを下げられるか」といった判断が、感覚ではなく数値に基づいて行えるようになります。
損益分岐点を左右する要点

固定費とは?クリニックで特に影響が大きい項目
クリニックの損益分岐点を考えるうえで、最も大きな影響を与えるのが固定費です。
固定費は毎月必ず発生するため、ここが大きいほど損益分岐点も高くなります。
診療所経営における主な固定費には、以下のような項目があります。
- テナント賃料・共益費
- スタッフ人件費(看護師、医療事務など)
- 医療機器・システムのリース料
- 水道光熱費、通信費
- 広告宣伝費(定期的に発生するもの)
厚生労働省の医療経済実態調査でも、人件費と賃料は診療所経営における主要コストであり、固定費全体の大部分を占めることが示されています。
特に注意したいのが、人件費です。
開業当初は「少し余裕をもった体制」を組みがちですが、その分、毎月の固定費が積み上がり、損益分岐点を押し上げてしまいます。
固定費は「高いか安いか」ではなく、想定する売上規模に対して適切かどうかという視点で判断することが重要です。
変動費とは?診療内容によって変わるコスト構造
変動費は、患者数や診療内容に応じて増減する費用です。クリニックでは主に以下が該当します。
- 医薬品費
- 注射薬・消耗品などの医療材料費
診療科や診療内容によって変動費率は異なりますが、一般的には売上に対して一定割合で発生するコストとして考えられます。
変動費の特徴は、患者数が増えれば増えるほど比例して増加する点です。そのため、「売上が伸びても利益が思ったほど残らない」という場合、変動費率が高すぎる可能性も考えられます。
損益分岐点の計算では、
- 固定費をどれだけ抑えられるか
- 変動費率をどの水準に設定するか
この2点が重要な分かれ目になります。
売上高と患者数の関係をどう考えるか
クリニックの売上高は、非常にシンプルに言えば「患者数 × 診療単価」で構成されています。
損益分岐点を考える際、多くのドクターが「売上はいくら必要か」という視点から入りますが、実際の現場で管理しやすいのは患者数です。
例えば、月間の損益分岐点売上高が把握できれば、それを
- 月間患者数
- 1日あたりの来院患者数
へと分解することで、経営の現実的な目標に落とし込むことができます。
診療所の外来収入は患者数の増減に大きく左右されます。特に開業初期は、想定どおりに患者数が伸びないケースも少なくありません。
そのため重要なのは、「理想的な患者数」ではなく「最低限確保すべき患者数」を把握しておくことです。
この最低ラインを知っていれば、開業後に患者数が想定を下回った場合でも、どの程度までなら耐えられるのか、どこから対策が必要なのかを冷静に判断できます。
院長人件費をどう扱うべきか
損益分岐点を考える際、意外と見落とされやすいのが院長自身の人件費です。
開業直後は、「利益が出てから考えればよい」として、院長報酬を後回しにしてしまうケースもあります。しかし、これは経営判断としては非常に危険です。
院長報酬を固定費として考えずに損益分岐点を算出すると、実際には生活費が確保できない、黒字に見えても実質的には赤字、といった状態に陥りかねません。
損益分岐点を検討する際には、「院長が安定して生活できる最低限の報酬」をあらかじめ固定費に含めておくことが重要です。
これにより、経営として本当に成立しているかどうかを、より現実的に判断できるようになります。
クリニックの損益分岐点はどう計算するのか

年間・月間ベースで考える計算の流れ
損益分岐点の計算は、決して複雑なものではありません。
基本的な流れは次のとおりです。
- 年間または月間の固定費を整理する
- 売上に対する変動費率を把握する
- 固定費 ÷(1 − 変動費率)で損益分岐点売上高を求める
重要なのは、まず年間ベースで全体像を把握し、その後、月間・日次へと落とし込むことです。
月間ベースで損益分岐点を把握しておけば、「今月は達成できそうか」「どの程度下回っているか」といった判断がしやすくなります。
損益分岐点計算でよくある注意点
損益分岐点の計算でよくある失敗として、次のような点が挙げられます。
- 固定費を過小に見積もってしまう
- 開業初期の患者数減少を想定していない
- 一時的な費用と継続的な費用を混同する
特に開業初期は、広告費や想定外の支出が発生しやすく、数字どおりに進まないことも珍しくありません。
そのため、損益分岐点は「最低ライン」ではなく「安全ライン」として、やや余裕を持って設定しておくことが重要です。
損益分岐点から見える開業計画の改善ポイント

固定費を抑えるために開業前にできること
損益分岐点を下げる最も確実な方法は、固定費を抑えることです。
開業前であれば、以下のような調整が可能です。
- 立地と賃料のバランスを再検討する
- 初期スタッフ数を必要最小限にする
- 医療機器の導入時期を分ける
一度決めてしまうと変更が難しい項目ほど、開業前に慎重に検討することが、長期的な経営安定につながります。
売上を伸ばすための診療体制の考え方
売上を伸ばすというと、患者数の増加だけを想像しがちですが、実際には
- 診療導線の見直し
- 予約枠の設計
- スタッフの役割分担
といった体制面の工夫も大きな影響を与えます。
損益分岐点を把握していれば、「どの程度の改善で黒字化できるのか」が明確になるため、無理のない改善策を選択できます。
開業支援ならメディシーへ|無料相談はこちらから

メディシーでは、物件探しから開業後のフォローまでを一貫して支援する「ワンストップ型」のクリニック開業支援を提供しています。
これまで多数のクリニック開業を支援してきた実績をもとに、個別状況に応じた最適なアドバイスを行っています。初期構想から開業後の運営まで、すべてのフェーズで伴走支援が可能です。
「どこに相談すればいいか分からない」「本業が忙しくて準備が進まない」「立地選定に自信がない」「機器の選び方がわからない」「資金計画が不安」…
一人で悩まないことも重要です。信頼できるパートナーとともに計画を立てることで、開業成功率は格段に高まります。
診療圏調査と立地選定
開業地の選定は、将来にわたって患者数を左右する重要なポイントです。 将来的な集患を見据えたエリア調査を実施し、競合状況や人口動態を分析。最適な立地選びをサポートします。
資金調達・事業計画支援
収支シミュレーションを含む事業計画の策定から、銀行融資や助成金の相談対応まで、安心してスタートできる体制を整えます。
建築相談
クリニックの理念やコンセプトに基づいた、内装プラン・レイアウトの提案ができる、医療機関を中心に手掛けている業者をご紹介いたします。
専門業者であるので、患者様やスタッフの導線を考えたレイアウトになり、居心地のよい・仕事の効率のよい理想のクリニックができあがります。
広告
医療機関の広告は、医療法などの規制を受けており、内容についても保健所などから指導があります。しかし、クリニックの存在を地域の方々に認知していただかないと、集患に繋がらないので、開業時の広告は必須です。
広告宣伝の方法もパンフレット・チラシ・駅看板や電柱広告など多岐に渡りますが、その中でもホームページは、医院側から情報発信できる有効な広告媒体なので、ホームページの開設はおすすめしております。
各種手続き・スタッフ採用・開業後のサポートも万全
保健所や医師会への開設申請、就業規則や社会保険手続き、スタッフ採用の支援に加え、開業後の増患対策や運営改善まで丁寧にフォローします。
あなたのビジョンと熱意を、現実の成功へと変えるために。
未来の理想的なクリニックづくりを、メディシーが全力でサポートいたします。















